巻之十九 〈20〉 月を詠む、あれこれ

また話す。
仲槃〈長村鑑、字仲槃〉は詩歌風の趣をよくわかっている漢である。

月夜にわが宅へ来た。
対坐して月を見ながら語る時に、わしは言った。

「詩歌と同じ事というが、月の趣を尽くすのは、詩よりも歌の方が優れている事は多いと思う。
だから古人が詠む月の歌数百首を採録して帖にして、月夜に当っては、時に出して吟詠して楽しんできた」と云った。

仲槃は感じ入いったと讃えてくれたが、その折に「いかさま杜詩の『斫尽月中桂、清光応倍多』と賦せる(詩を作る)より、『久方の月の桂も秋来れば紅葉するばや照増るらん』というよみ方は遥かに勝っておりますね」と云うのは、実によくその趣を了解した答えである。

今またこの様に話し合う人も少しと、林子も悲嘆する。
時にまた話す、近藤孟卿〈吉左衛門と称して奥御右筆組頭〉も俗人であるが、歌を好み、折々は続いて出るうたにも見るべきものもある。

ある時わしは云った。
「月の唐詩に、『水国輝華別、詩人比象難』と云う句を挙げて、いかさま山の手と水辺で、月の光り輝くは大いに違うものだ。
如何様に晴れ極まっても、水辺は山の手ほどには澄み渡らぬものなるを、よく言いおおせたり」と云った。

孟卿は速やかに解して、俊成卿は、

住わびて身を隠すべき山里に
    あまり隅なき夜は月哉

と詠んだのは、山月の清朗甚しさを、よくあらわしていると答えたのは、一時のことながら心に留まって、年を経ても忘れずにいると物語ったのだ。
関連記事
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

プロフィール

百合の若

Author:百合の若
FC2ブログへようこそ!

検索(全文検索)

記事に含まれる文字を検索します。

訪問者数

(2020.11.25~)

ジャンルランキング

[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
845位
ジャンルランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
歴史
157位
サブジャンルランキングを見る>>

QRコード

QR