続篇 巻之20 〈15〉 蝉の声 聞きなし

10月の末、箕輪の里なる大関括斎を訊ねた。
折から紅葉の時なので、その樹下で談話する中に、括斎が云った。
ひぐらしと云う蝉を今年初めてよく見ると、小さい蝉でやはり秋に鳴く、つくつくぼうしと同じ物だと。
わしは云った。しかし日暮(ひぐらし)の声は高揚で、都来々々法師(つくつくほうし)の音は閑凄だと疑うと、不審に思うのは尤もである。
声はこの様に特殊だけれども、夏は高調であるが、秋は閑吟する。
その虫は同じ物であるが、夏秋に声が替わるまでと云った。
括斎は、虚妄を云う人ではない。されどこの言いはいまだ信じ難い。

『本草啓蒙』にも、けい(虫恵)蛄(こ)はひぐらし〈予州吉田〉。5月に早朝からその夕方まで鳴きつづく。声に抑揚がある。その蝉は形は小さく淡黒色。羽は透きとおっている。

弘景、45月鳴く。しかも小紫青色の物は、ひぐらし(虫惠 蛄)であると云う。
『群芳譜』に、『荘子』に「虫惠 蛄」は夏蝉と言われると云う。『秘伝花鏡』に、夏「虫惠 蛄」と云う等の説に従うがよい。時に珍しく「蛄 虫惠」と為るものはこれに非ず」。

茅蜩(せみ)はひぐらし〈『和名鈔』〉。
大きさ「虫惠 蛄」の様に、実の色は淡褐と浅黒と相まじって緑条がある。長さは6分ばかり(1分は3.03㍉)。羽は長く身の倍、透きとおっている。この蝉は山中にいる。必ず申の刻より鳴く。また早朝にも鳴く」。

「虫召 虫+人偏を取った僚」(ちょうりょう、ミンミンゼミ、クマゼミ)はころもぜみ〈江戸、石州〉、みんみん〈作州〉。形は大きく馬蜩(おおぜみ)の様に羽が透きとおっている。秋の末に盛んに鳴いて自ら呼んでいる」。

寒蝉はつくつくほうし〈『和名鈔』〉。形は小さくて彩は黒い。89月晩景に鳴く。
つくしよしとなくと俗に云うと、『大和本草』に云っている。

上の様に見えて、全く二物である。かつ秋前地中から出てきて、蝉蛻(ぬけがら)をのこす事は何とも法師は秋にいるもので、夏には非ざる様だ。

また『啓蒙』に挙げた所は、蝉蛻は初夏に早く出る小蝉。「虫召 虫+人偏取った僚」はころもぜみ、土用頃から出るもの。茅蜩は盛暑に上野の山中等で専ら鳴く。これが「ひぐらし」。寒蝉が法師である。括斎の言う事は疑いたい。

また『和名鈔』に云う。
寒蝉は、俗に云うかなせみ。せみに似て小さい。色は青赤である。月令に寒蝉鳴くと曰うこれなり。
「虫召 虫+人偏を取った僚」は、和名くつくつほうし、8月に鳴くものである。

茅蜩、和名ひぐらし、小さく青蝉である。
これ等にても一定しない。
『啓蒙』の説とも合わず、わしの前言の様になるだろう。

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