続篇 巻之十六 〈四〉 菜っ葉医の術

江戸の近在に一医者がいた。切り傷を療するのに、疵の浅い深いに拘わらず、きめ細かな粉薬を疵口にふりかけ、菜の葉を上に貼る。よく癒えるのが奇である。方を秘密にして人に伝えない。俗な呼び方で菜っ葉医者と称する。
わしはある時医臣の才能の立つ者に問うた。上の様に、疵口を洗わず縫わないやり方はあるのか。答えるには。某の家伝に、軍中における刀傷を療するに、粉末薬をつけ、疵口に生草の葉を貼る方がある。全く菜の葉のみではない。これは疵口の熱や乾きを止めるのみである。
後、かの菜っ葉医者の薬一貼を買って、見てみると家伝粉末の色を彷彿としていた。すなわちこのやり方を制しようとしたが、在勤の邸中はこの薬を採用することが都合がよいと。
あくる年の夏に平戸に帰り、家のやり方をきいてみると、薬の色は甚だ似ており、効果があるのも同じである。ならば菜っ葉医者と同じやり方ではないか。
しかし切り傷を治すには、後々傷痕が残らないようにして欲しいものだ。
件の粉末薬は、ただ速やかに治るのみで、疵痕には無頓着である。
だから、貴人や婦人には用いるのはよくない。軍中の様な所は、一手(一人の医者)で数人を治療し、ただ速に癒えることが求められる。ゆえにいつもは秘して(このやり方で)施すことはない。
菜っ葉医の術は速功を旨としているから、疵痕にはこだわらない者なのかな。
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コメント

No title

昔の戦いの場で良く効いた治療法も、世の中が平穏になると、もっと違う結果を求めるようになるのですね🍏因みに戦場では、死にかかっているひとよりも回復しそうなひとを優先して治療するとか(・・)
ほんとでしょうか🌌

No title

和賀 さん
コメントありがとうございます。
現代の災害でもトリアージタッグで選別する現実がありますね。
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