2020/10/21
続篇 巻之十六 〈四〉 菜っ葉医の術
江戸の近在に一医者がいた。切り傷を療するのに、疵の浅い深いに拘わらず、きめ細かな粉薬を疵口にふりかけ、菜の葉を上に貼る。よく癒えるのが奇である。方を秘密にして人に伝えない。俗な呼び方で菜っ葉医者と称する。
わしはある時医臣の才能の立つ者に問うた。上の様に、疵口を洗わず縫わないやり方はあるのか。答えるには。某の家伝に、軍中における刀傷を療するに、粉末薬をつけ、疵口に生草の葉を貼る方がある。全く菜の葉のみではない。これは疵口の熱や乾きを止めるのみである。
後、かの菜っ葉医者の薬一貼を買って、見てみると家伝粉末の色を彷彿としていた。すなわちこのやり方を制しようとしたが、在勤の邸中はこの薬を採用することが都合がよいと。
あくる年の夏に平戸に帰り、家のやり方をきいてみると、薬の色は甚だ似ており、効果があるのも同じである。ならば菜っ葉医者と同じやり方ではないか。
しかし切り傷を治すには、後々傷痕が残らないようにして欲しいものだ。
件の粉末薬は、ただ速やかに治るのみで、疵痕には無頓着である。
だから、貴人や婦人には用いるのはよくない。軍中の様な所は、一手(一人の医者)で数人を治療し、ただ速に癒えることが求められる。ゆえにいつもは秘して(このやり方で)施すことはない。
菜っ葉医の術は速功を旨としているから、疵痕にはこだわらない者なのかな。
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コメント
No title
ほんとでしょうか🌌
2021/01/07 09:33 by 和賀 URL 編集
No title
コメントありがとうございます。
現代の災害でもトリアージタッグで選別する現実がありますね。
2021/01/07 09:34 by 原田 URL 編集