続篇 巻之55 〈2〉 続墓磨き  その2

また鼎が云う。
我が門に某と云う御代官が手付八州廻りと 云う勤めで、この役は近郷の盗賊あらためである。
よってけの度はこの墓磨きの穿鑿(ともにうがつという意味。ここでは問題解決と見られる)を云い付けられて、心をつけたが、かつて手がかりなし。
それ故、何れにして磨いたと聞いては、すなわち赴けども、いつもその後ばかりである。

けれどもそのありさまは必ず妖怪とも思われぬのは、井戸がある所はこの水で洗磨したと見えて、井戸より墓場まで行々(ユクユク)水がこぼれた痕がある。
また洗った墓には水がついた足跡があるのを見れば、常人の足跡である。

またある所では磨いた墓石に、依心願磨之の字を黒く書いたのがある。
甚だ拙い筆である。
これらは人の戯れに書いたものか、若しくは実に心願にて墓を磨く者か。
これはかの門人の話にはであると。

鼎また話す。
回向院はその宅の近くなので、かの寺内の墓を磨いていると聞こえてくるので、往って見ると、なるほど洗磨したことに違いなしであった。
その寺の構えもあらわではなかった。
然るに如何にして入った者か。
何れ夜分のことだろう。
かつ門内にある大塔〈この踏は、続篇巻ノ28に記した、大火の後焼死を吊るした塔で、高さ2間である。古い塔と合わせて3基ある〉が3つだが、2つは磨いて、1つは旧のままに。
長(た)けは高い塔であるが、如何にして磨いたのか。
上の方なる宝珠形は残して、下はみな磨いてある。
足次(アシツギで無くともと思われる。わしは幸いに翌日かの寺の門前を過ぎたので、轎(カゴ)中より見たら、鼎が言うように、2つはよく磨き新碑のようで、1つは古色があった。
ほとんど不思議といえる。

またある人が云う。
上野山下の某寺では、番人を付け置いてかの妖を禁じたが、ある夜墓間に人がいるのを知って、守者打より捕えると、1人にあらず男女だった。
怪物かとただすと、淫会(逢瀬)の者だった。
人みな笑い散ったと。

北山の子縁陰が鼎にはなしたのは、湯嶋天神下に宅する奥医片山与庵の先祖の墓は、五輪塔で古塔で殊に大きいが、いつしか傾き倒れて年が経たので、修建には数金の費用がかかるので意外に捨置きしていた。
この度かの妖磨がいつか磨くので、倒れた大塔を故の如く建てたとのこと。

これら所謂鬼に瘤を取られたものか〈鬼瘤の事、『宇治拾遺』に見ゆ〉。
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