2020/05/28
巻之六十九 九 落とし噺
世にいう落とし噺とは作り事だ。
それでも時として真実を突くことがある。
近くを仕切る吉原町の娼の者がいた。
妾が前に郭中の家に棲んでいた頃、めし使っていた禿童がいた。
また妾にはお客の某から贈られた蓋物(磁器)があった。
妾はことさらにそれを大切にしていた。
それなのにある日の事見当たらない。
禿に云って探すが出て来ない。
妾は禿はどこかへやったのを忘れたのだろうと疑っている。
それで禿を責め立てた。
お前はどこかに置いたのだね、と。
禿は幼いが、納得ならない。
ある日妾が(建物の)上から下を見ていると、禿がいて、貧しい身なりの辻占いをする僧に占いを請うている。
僧曰く。何を占うのか。
待ち人か病人か、それを云ってくれないと応えられないんだよ。
禿云う。どうして何を占ってと云わなきゃなんないの。
だったら別にお坊さんに聞かなくてもいいや。
(僧が)ならばもしかしたら、失せ物の事かと云うので、禿云う。
いいよ、いいよ。失せ物じゃないけど蓋物なんだもの。
妾、このやり取りを聞いて抱腹した。
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