巻之30 〔35〕  お灸

 かつて田沼氏の執政のとき、その家老井上伊織は殊更にときめいていた。
その1つを挙げると阪大学と云う輪王寺宮の家司が、貨幣融通のことで伊織の宅に行き、謁見を請うた。
が取り次ぎが云うには「主人は出勤前で灸治療をしています。
だから今朝は会うのは難しいです」と答えた。

 大学は「急ぎの用でございます。
如何ようでも会っていただけませんか。
推して目通りを仕りとうございます」と云った。

 「さらば通られよ」と云うので入ると、伊織は出勤前なので継上下を着けて、物に腰をかけ足三里に灸をしていた。

 灸をする人を見ると、御船手頭向井将監だった。
また羽織を持って灸の灰を払っている人を見れば、御勘定奉行松本伊豆守である。

 大学はとても驚きその場を去った。
これは後に大学から直に聞いたことである。
この頃の世態は、聞いても驚くばかりである。
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