2021/05/02
巻之30 〔36〕 鵜、鷺
『東行記』に備前国かが戸と云う処を行けば、長堤がある。高くして左右に芝生が生え、その上を往来する。右は吉井川である。
川幅広く、底も深い。
その左を見ると、渡しの丘に神の祠がある。
四面に松が生えて、みな喬木である。
その木の末端に鵜、鷺が棲んで鳴き声がにぎやか。
路の祠を去って数町余り歩いてもその声がよく聞こえてくる。
またニ禽は共に巣を成して、子を育てるさまは殊に珍しい。
鷺、鵜の白黒が混じって棲むさまは微笑ましい。
されど共に水禽なので、漢土の鳥鼠洞穴よりは類を同すると云えるだろう。
この鳥の糞は条幹に被り白色雪景に似ている。
さしもの大木みなこの為に枝葉剥落して枯れ木のようである。
またこの神の祠は、長船明神(おさふねみょうじん)と云って鍛冶の神と伝わる。
後に『煙霞綺談』を見るとこのように云う。
備前国長船は、古代から刀剣の鍛冶上手があって、今もその子孫断絶なし。
工人は鉄槌を用いない。
槌に用いる石は自然にあって、昔から山中に入って、大様一年中、用いるだけの量の石を拾って来るという。
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