巻之19 〔25〕  諸家の模範  その1

 林叟曰く。年少の時、佐倉侯〔堀田氏〕の文学は渋井平左衛門(諱~いみな、孝徳。号、太室)を師として学んだ。
その著書数多ある中に、零星小品の冊子を『世之手本』と名づけて、常に見聞きする諸家の模範とも成り得ることを、仮字に記したものがあったので写しておいた。
この頃篋(はこ)の底からから検出したが、このような小冊は散亡しやすいので、わしがかの冊中に写し加えよと勧めると、その意に従う。

 その序文に云う。
世の手本は、卑賤の身として、しかも愚かな口さきになるので、申すも恐れながら、御当家の御政のようなものは、上古よりも聞き及ばぬ。
自然と封建の制になって、諸侯多くおあられるが、大方上にならう下で、異朝に書き伝えるような暴政をおこなう事は聞かない。
暴君があっても上の威を恐れて、下を虐して民を苦しめる事はならない。 
幼から都下に居て、こと人に数多出合って物語をきき、善政善風儀とおもう事は心に銘(めい)じた(しるした)。

 人にもかたりなどしたが、見る中に善き政もすたり、善き風儀もかわりゆくことがなきにしもあらず。
近頃老いの身の物忘れが多いままに、覚えていたことも忘れつくさぬ内にと筆にのせ、せめて儒生の職分ならば、天下のことがおろかなこと、国々の政務風儀のたすけにも、万が一はならないだろうかと、書きはじめに。

                          続く
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