巻之19 〔25〕  諸家の模範  その2

  加賀の守殿は刀をさしながら乗り物にお乗りになる。
国持の第一で、御取り扱いも格別だけれども、公儀を重んじ法令を堅く守り、参勤交代の時節違うことはない。
すべて質素で、供も徒士(かち)9人、供鑓(やり)3本、合羽籠10荷に過べからずの掟を守り、跡乗りもない。
人数は少なので、御三家に準じ跡供をきらずとも、往来の妨げにならない。
大火の後、御郭内(おくるわうち)込合う間、跡供を残して見合入候得(みあわせいりそうらえ)と触れがあると、外の諸侯は如何にも連入候様(つれいりそうろうよう)にいたして、連れていずとも、跡から入り、加賀守殿供は神田橋に残して、誰も咎めるべきではないが、始終御門へ跡供は入らない。
このようなので願いごということもなく、役人に取り入り物頼みすることもなきよし。

 黒田殿は、日頃から合羽籠を持たれることはない。
外の方々は数多く、または塗り色をかえて、一荷も多く致される。
これを往来の人が見る所である。

 薩摩も法令を重んじ、世間の風に移らず。
衣服華麗な事なく、道中で乗懸蒲団は、紺の木綿風呂敷に包んで、見事になることはなく、これも緒役人へ附届け等は丁寧だが、取り入ることなどは世上で沙汰がない。
振る舞いのとき客がほめた器物は、揃えて跡からおくられている。
質素だがおお躰成は並びなく、近頃大成殿を江戸の通りに立たれたという。
先年嫡子があられた後、御主殿は入られたことがあったが、仮令(たとい)御出生あっても、次男にすべきとお断りされた。

また家中より、相続のとき、内室を奥方にされた。
昔より加賀の仁、薩摩の義との申し習いもことわりである。
若党は大要次男弟なども連れている。
脇目には上下の差別がないように見える。
加賀の表向きは豊厚だが、自身は至ってきりつめているよし。
書士在藩の者は他出させずという。
主人の衣服、器物、三州の物より外は用いない。

                         続く
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