続篇 巻之三 〈一五〉 高松侯の臣の沼田逸平次と云う者

高松侯の臣に沼田逸平次と云う者がいた。
馬乗り役を勤めながら、傍ら好事の人である。
古昔の図書若干を蔵して、己の著書もまたある。
近年侯邸の厩より火を出して消失させたときに、初め火が起こった折、馬添えの者は狼狽して為すことを失した。
沼田はその子某と共に進んで炎の中に入り、侯父子が乗る馬に道具をみな調え、焔々を脱出した。
侯父子を騎馬させて、邸を立ち退かした。
それで侯は危難をまぬがれた。
沼田は思うには。 
この様な急な出火では、保管所の物一つも焚を免れることはなかったろう。
途中より戻って火を視ると、刀箱は煙に包まれ、火は既に遍いていた。
木鉄みな燃えて、その間に掛け軸らしきものがあった。
即座に思い出すのは、この侯家は常に敬い蔵する神祖の御画の真によるかと。
すなわち、火中より引き出したものに、焼き痕がないのだ。
開いて見ると、尊容厳然として故(もと)の如くだった。
人はみな驚かぬ者はなかったということだ。
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