巻之70 〔19〕 千塩楓(チシオモミヂ)

 先年、北村宗匠の物語に、世に『千塩楓』い云って、春の芽だしの紅色なるものがある。
この樹は春のもみぢと『源語』の中に見えると云うのをある日、聞きに人をやったら、『源語』は覚え間違いで『勢語』であった。

 昔、男が大和にいる女を見て、 夜ばいて逢ったという。そして程経て宮仕える人だったので、帰って来る道で、弥生(3月)ばかりにかえでの、もみぢのとても面白いのを折って、女のもとに途(ミチ)から文を渡した。

 君がためたをれる枝は春ながら
      かくこそ秋のもみぢしにけり

といってよこすと、返事は京に着いてから持ってきた。

 いつのまにうつろう色の付ぬらん
      君がさとには春なかるらし

 北村がいった。
これは先達の説ではない。
口外しては憚られると思うと。
だがこの説は古来未だ発してないので、千塩楓の考證されたし。
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