三篇 巻之67 〔10〕   天狗が走りて火を引く、妖魔を見た者語る

  わが荘の天祥庵の守僧に、この頃、昌信と云う者がある。
日夕参拝の時、しばしば話を交わす。
ある日、わしは何かの話の中で「何処にても、出火して大火になれば、天狗が炎の中を走る廻って火を引いているそうだね」と云うと、「では物語をいたしましょう」と云った。

「長門侯の臣の某が江都より下国する時、侯の命(この侯は法名で呼ぶことにする。この人の事は詳しくわからない。法名英雲院 ※7代藩主毛利重就、1725~1789か?)によって伊勢に参詣した。それから京に行き、処々巡覧して、正月13日の夕愛宕山に登った(この月は天明年中と云う。下文によれば天明8年戌申である。(1788年1月30日~3月9日)この歳京師の大火、皇宮は炎上した)。

  その折から晡時頃から、宮川町1丁目荒物屋出火して、洛中は延焼した。
この時火は光天を焦がし、満炎は雲のようだった。
かの士は山上から街を見下ろすと、その盛んな燄(ほのう)の上を、異形非類の者が群れを成して、奔走していた。
よく見ると、面に一目の者がある。
多くは甲冑を身に着け馬に騎(の)っている。
ほとんど戦場のようである。
この有り様は、かの士ばかりではなく、従僕の輩にもよく見えたとぞ。
この怪は夜が明け日光を見て、みな消え去ったという。如何なる者か。

 するとはじめにわしが聞いた、火中を天狗が走って火を延(ひ)くと云うのも誣(しい、ごまかしの意)ならず。
また世に名高い、昔土佐氏が描いた百鬼夜行と呼ぶ図の中にも一目の怪があった。
これ等は虚謔の為に図にしたものではないだろう。
要するに、奇怪不思議のことである。

また云う。その大火の早朝に、12,3ばかりの少女が火盆に、燃灰を累々と積み上げ、荒物屋の戸に入った。
隣の戸からは、みな視ていぶかったが、その火元の家人は気付かなかった、と。
ならばこのものも、また妖魔天狗の類になるのか。
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