2020/10/09
続篇 巻之五十六 〈七〉 間宮林蔵
官の小吏の中に、間宮林蔵と云う者がいた。わしはひと目会いたく思って尋ねていたが、これまで会えなかった。
その人は先に蝦夷地に事があるときに、蝦夷の極に至り、満州の境を超えて、清人にも接語したと聞いた。
ある人に聞いたが、林蔵は常陸の人で先年蝦夷御用の時に、松前奉行支配下役に召抱えられ、勤め上げたが、かの地故の様に松前氏に御返ししては、御普請役となって、御勘定所に隷して、その後は天文地理の書を読んだ。
固(もと)より、妻子もなく、家には甲冑一領、着換え一領、他には当用の武具と兵書などがあって、軽賤の者には稀な志がある者である。
また御勘定奉行の密旨を承って、所々の御用を勤めているので、在宅することも少なく、ただ一人の傭婆(ヤトイババ)があって留守をする。
今年は〈庚寅〉長崎奉行に属して従行していたが、備前国鞆の津に至った時に、時疫(流行病)をうけて危篤に及んでしまった。
この時受け持っていた書き物はことごとく焼き捨て、翌日奉行へ直対を請い、官長から承っていた密旨の證文を手渡しで返した。
そして帰舍してたちまち死んだと。
そうして、その男は、馬革で屍を包み、還り、葬ったと云うにも、こちらが恥ずかしくなった。
悲しい思いで聴いたものよ。
頃は八月のことだったか、検使として御普請役二人は出立して信州に赴いたという。
ある人が云った。
この者僕の所に往来してから年は久しくなってしまった。
永日に渡りあきらかに詳しく申し候わん。
- 関連記事
-
- 続篇 巻之三 〈一五〉 高松侯の臣の沼田逸平次と云う者
- 続篇 巻之五十六 〈七〉 間宮林蔵
- 巻之十 〈五〉 妖狐
スポンサーサイト
コメント
No title
2021/01/08 15:59 by 塩田 URL 編集
No title
話好き、人好きの静山公ですからね。間宮林蔵も魅力的な方です。
2021/01/08 16:00 by 原田 URL 編集
No title
そのひとの 光と影みたいな🍏☘️
2021/01/08 16:03 by 和賀 URL 編集
No title
今読み終えて、しんみりしています。常陸の国の人(今茨城にいますが)とは知っていましたが。残された業績は大きいのに。
2021/01/08 16:03 by 原田 URL 編集
No title
筑波山に間宮林蔵が座禅して決心をしたという岩がありますよね。
2021/01/08 16:04 by 高橋 URL 編集
No title
立身石ですね。
2021/01/08 16:05 by 原田 URL 編集