続篇 巻之五十六 〈七〉 間宮林蔵

官の小吏の中に、間宮林蔵と云う者がいた。
わしはひと目会いたく思って尋ねていたが、これまで会えなかった。
その人は先に蝦夷地に事があるときに、蝦夷の極に至り、満州の境を超えて、清人にも接語したと聞いた。
ある人に聞いたが、林蔵は常陸の人で先年蝦夷御用の時に、松前奉行支配下役に召抱えられ、勤め上げたが、かの地故の様に松前氏に御返ししては、御普請役となって、御勘定所に隷して、その後は天文地理の書を読んだ。
固(もと)より、妻子もなく、家には甲冑一領、着換え一領、他には当用の武具と兵書などがあって、軽賤の者には稀な志がある者である。
また御勘定奉行の密旨を承って、所々の御用を勤めているので、在宅することも少なく、ただ一人の傭婆(ヤトイババ)があって留守をする。
今年は〈庚寅〉長崎奉行に属して従行していたが、備前国鞆の津に至った時に、時疫(流行病)をうけて危篤に及んでしまった。
この時受け持っていた書き物はことごとく焼き捨て、翌日奉行へ直対を請い、官長から承っていた密旨の證文を手渡しで返した。
そして帰舍してたちまち死んだと。
そうして、その男は、馬革で屍を包み、還り、葬ったと云うにも、こちらが恥ずかしくなった。
悲しい思いで聴いたものよ。
頃は八月のことだったか、検使として御普請役二人は出立して信州に赴いたという。
ある人が云った。
この者僕の所に往来してから年は久しくなってしまった。
永日に渡りあきらかに詳しく申し候わん。
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コメント

No title

静山公は間宮に会いたくて会いたくてしょうがなかったでしょうね、気持ちわかる💚

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塩田 さん
話好き、人好きの静山公ですからね。間宮林蔵も魅力的な方です。

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間宮林蔵… そんな生涯でしたか🌌 
そのひとの 光と影みたいな🍏☘️

No title

和賀 さん
今読み終えて、しんみりしています。常陸の国の人(今茨城にいますが)とは知っていましたが。残された業績は大きいのに。

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そうだったんですね、、。
筑波山に間宮林蔵が座禅して決心をしたという岩がありますよね。

No title

高橋 さん
立身石ですね。
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