巻之30 (30)  一ノ谷から聞こえてくる声

 須磨浦の右方の山ぎわに平敦盛の墓がある。
その辺りには松が群生している。

 左は浪が寄り一面の渚である。

 佳き風景である。

 かの墓の向こうに茶店がある。
蕎麦を売っている。
旅客がきて集まり、歌をよんで賑やかである。

 これより山の方を見ると、一ノ谷、鵯越(ひよどりごえ)である。
遠目だが、険しさがわかるだろう。

 また松の森には所々紅色がある。
「あれは何なのか」と尋ねると、躑躅(つつじ)の花と答えた。

 汀には白浪が寄せるに、山には紅が所々見えるのを、源平の旗に見なせば、方位は互いに違えていると興じている。

 その後ろでは播州竜門寺の僧、奇哉に邂逅した。
談は一ノ谷のことに及んだ。
彼曰く。墓前の茶店の夜は寂然としている。
墓のあたりは、海辺も山ぎわも人の声があって、戦の様であるという。

 それで怯えて、人が居ることはないという(『東行筆記』)。
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