巻之23 〔18〕 白岳に登ったら、海で起こる不思議を見た

 医師の某が、先年壱岐に往こうとして田助に泊まった際、この浦の辺りの白岳に登った。

 時は3月で天気はよく晴れ渡り、海の波は穏やかだった。
4,5人の輩としばらく眺めていたが、海洋を臨む処4,5里と思われるが、西の天にはたちまち一むらの雲が、墨を流す様に俄爾となりそれは半天をおおってしまった。

 その形は斜角(しゃかく、直角90度、平角180度以外の角)で下り垂れる所に鋒(ほこさき)がある。
やがて海面に下ろうとすると、潮がそれに応じて沸騰した。
それは尖った山の様な形で高さは2,3丈(6~9㍍)だった。
雲と波は相向って、一条の銀氷白浪が躍々としていた。

 すなわち暴風大雨かと思われたが、遠くにあるのではっきりとわからない。
この時雲が下れば、浪が迎えて上る。
雲が上がれば、浪は下る。

 こうして西から東へと奔る如しである。
その迅速さは須臾に10余里を渡り終えて雲は散り、浪は平かになった。

 このとき、1艘の小舟が2,3里辺りにあったが、この風に中(あた)り、ひっくり返ってしまった。

 また1里辺りに大船があったが、俄かに帆を張って走り行く。
なお風の音に触れて楫(かじ)を折って、地の方角に漕ぎ入った。

 奇異な事に思えたので、土地の老人に見たことを話し、何のことだかを訊いた。
老人は「これはゑいの尾と云ってな、これに逢うたときは船は必ずひっくり返る。舟人はこれをみたらよく晴れていても著しく警戒するものじゃ」と答えた。

 このゑいの尾と名づけたのは、ゑいは魚の名(紅魚)、雲の形はかの魚の身に似ているので云爾(しかいふ)となった。


 *何とも不思議な話でありました。が判別不可能が即ちあり得ない事とは思いません。甲子夜話には、不思議な話が多く含まれます。1記録として読んで残します。

 *また対馬や壱岐、平戸の辺りや白岳には不思議な白髪白髭の老人の話もありますので、これからこの類の話に出逢えることを期待しながら読んでいきたいです。
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