三篇 巻之72 〔8〕 困ったときの霊験あらたかなる歌

 鄙(いなか)の俗には怪しく思えることも間間ある。
わしの領邑大嶋と云う所は、居城の北方から三里を距(へだ)たる小嶋で、嶋の方は四里と云う。
嶋の後ろは朝鮮に向かっていて、秋晴の夕は、陰全として視られる。
この嶋の俗だが、野飼い牛(野飼いとは、その家に置かず、に、家外の野中に繋ぐことをさす)が放たれて(家に)戻らない時は、その家の柱に、和歌を片紙に記して、逆首(サカサマ)にして貼っている。
歌は、

  たちわかれ因幡のやまの峰におうる
       まつとし聞かば今返りこん

と云う。
すると放たれた牛が忽ち自らその家に帰ってくる。

 この行平卿の詠歌が如何にしてこのように霊験があるのか。甚だ訝しい。

 また、領内の里俗に一本釣りと云うものに往き(この一本釣りとは、釣り糸が長く、十尋をこえる、一尋は六尺で約1.8㍍)、時に釣り糸がもつれて解けなくなることがある。
また鴨を捕るには、鴨窩(カモワナ)といって、長糸に黏(モチ)をつけて設け、鴨の飛降を遮り捕る。
この糸の時にもつれて用を為さないことがある。

 これ等のとき、 
   千早振神代も聞かず立田川
        唐紅に水くぐるとは

この業平朝臣の歌を三唄して、乱れ糸を解くと、糸は忽ちに解けると。
これも如何なる理(スジ)というのか。
疑わし訝しきもまた一層である。
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