2021/11/07
三篇 巻之35 〔19〕 鶴がくわえて持ってくる稲の種を植える話
今年の重陽に、昌成のもとに音問(タヨリ)するとき、佳節なので菊花を折り添えて与えると、報(ムクイ、返事)として、短冊の一句に茎の長い稲穂を添えて贈ってきた。曰く。鶴の含来る種をうえしという
八束穂の長月やこの秋の稲 昌成
附簡に云う。重陽の黄菊を賜り有り難く、御そえごとかしこまりました。
御返しは申し上げず、御むくい(御返し)に長穂を呈しました。
ころえは草加宿(草加は、千住の次の駅で奥へ行く街道である)に縁のある者の田の中に、ことし作りまして一反斗の所に熟しました。
先年鶴が喰いに来た種とのこと、楽翁殿白川へ植えられたものと同じ種のよし(楽翁が白川へ植えたとあれば、桑名移封以前のこと、未だ在職のときのことか)。
当年豊饒の瑞穂と珍重いたしており、さし上げます。
このように云うのは、後の人が覚えているような種でもならないだろうと、その麗状に写しとどめた。⇒2枚の図参照。


図の稲について、『本草啓蒙』を閲覧すると、異邦に稲(トウ)と云うのは、吾が「モチゴメ」のことで、吾が日用の者は、異邦の粳(コウ、うるち)と見られる。
因みに『本草』を集解の粳の条を見ると、曰く。
真臘に(真臘は国名)水稲有り。
高さは丈(1丈で約3㍍)ばかり。
水に随てしかも長ずと見える。
これに依れば、この図にした稲は、集解の文には劣るが、初め鶴の銜(フクミ、鶴がくわえてくる)が来る頃から、楽翁が移植されたものが転歴して、このように5尺(約1,5㍍)余りにも成長するならば、その初めは高丈になることを推し量ること。
因みに真臘とは何処かと尋ねると『和漢三才図会』を読むと、真臘国は、東は海に際り、北は占城(チャンハン)国に抵(あ)たる。
また占城国は、東は海に距(へだた)り、北は安南(清の地)、南は真臘である。
占城国は日本に至ること、1700余里(真臘国より吾が国を指す、東北の間とする)。
そのようなときは、鶴が真臘の水稲を銜み来るとするならば、1700余里の波上を飛渉して至るものである。
翼力の強いことも、また丈稲と伯仲する。
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